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髪を通して世界探索をする、とある美容師の研究日誌 — Field Notes from a Hairdresser's Lab

FILED BY MASASHITT

現役美容師・29年目。サンフランシスコを拠点にヘアサイエンスとエフィラージュカットを探求しながらHair Caffe Labを運営。「科学と非科学、ハイクラスとストリート」—その交差点に挑み美容に留まらない知見と私見をマイペースに綴ります。/29-year hairdresser based in San Francisco. Exploring hair science and the Effilage technique while developing Hair Caffe Lab. Navigating the intersection of science and intuition, high-end and street — writing it all down at my own pace. About this lab →

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LAB NOTES #1|絶望が転換点だった——美容師が自分のヘアプロダクトを作った理由

2026-04-15 By masashitt カテゴリLAB NOTES


→ Read in English


アメリカに来て以来、ずっと探していたものがある。

ヘアカットの時に使う、いわゆる「リーブイントリートメント」と呼ばれる類いの商品。櫛通りを良くして、髪に適度な滑りを与えて、静電気を抑えてくれる。地味な存在だけど、僕にとってこれは仕事に欠かせない”道具”だった。特にここでは、人種も多様だけに皆それぞれヘアケアの仕方も大きく違うので、仕事をする上で髪を扱いやすくするのにとても役に立つ。特に僕のようなドライカット美容師には尚更。

日本にいた頃はお気に入りの商品があった。アルガンオイルベースのスプレータイプで、質感も操作性も申し分ない。毎日、全てのお客様に使っていた。

ただ一つ、致命的な問題があった。

エアゾル製品だったのだ。

飛行機に持ち込めない。アメリカに持ってこれない。つまり、現地で代わりを見つけなければならなかった。


「商品」ではなく「Tool」

「アルガンオイルが良いのは分かっている。だったらアメリカにもあるだろう。」

そう思って探し始めた。

しかしこれがまぁ難航を極めた。

アメリカのヘアオイル市場は巨大で、アルガンオイル系の商品は山ほどある。片っ端から買った。かなりの数を試した。そしてそのほとんどを、使い切らずに捨てた。

なぜか。

ほぼ全ての商品が、消費者への”インパクト”を重視しすぎている。「使ってる感」を演出するために、質感が重すぎるのだ。これは日本のドラッグストア系の商品も同じだ。髪につけた瞬間にツヤは出る。パンチはある。でもスタイル・デザインの邪魔をする。それは僕が求めているものとは違う。

僕が欲しかったのは、もっと繊細なもの。全ての髪型に使えて、デザイン(特にボリューム)の邪魔をしないもの。品のある艶。しっとりはしても、重くはない。

全てのヘアスタイルを邪魔しない。髪質を選ばない。それでいて確実にカットを中心に美容師の仕事をサポートしてくれる。言い方を変えれば、”商品”ではなく”Tool”。プロフェッショナルの手元に常にあるべき、静かで確実な道具。

それが本当になかなか見つからなかった。


そしてある日、やっと出会った。

名前は伏せるけど、ようやく理想に近い商品を見つけた。軽くて、繊細で、邪魔をしない。本当に全てのお客様に使うものだから、12本単位でまとめ買いしていた。

…しかし。

ある日突然、その商品が原料成分を大幅に変更した。

何の予告もなく、パッケージは同じままで中身だけが別物になっていた。あの軽さは消え、他の商品と変わらない重たい仕上がりに変貌していた。

まとめ買いしていたストックを手に取って、愕然とした。

とんでもない喪失感。また振り出しに戻っちゃった。笑

もう一度、一からあの商品テスト地獄を繰り返さないといけないのかという事実に、絶望した。。。


絶望が転換点だった

でも、この絶望が転換点だった。

そこで初めて、「自分で作れないだろうか」という考えが頭をよぎった。

今までは一度もそんなことを考えたことがなかった。プロダクトは買うもの。メーカーが作るもの。美容師の仕事は髪を切ることであって、商品を作ることではない。そう思っていた。

でも、頼りにしていたものが突然消えた。代わりがどこにもない。

でもまた失敗続きの商品購入は、もう本当に本当にしたくない!お金もかかる!だったらこれはもう…自分で作っちゃうか?その方が話が早いかも!?でもそんな簡単じゃないよなー でももう買い物で失敗もしたくないなー とか1人でブツブツ言っていた。

そしてリサーチを始めたわけだが…これで大いに驚いた。

ここアメリカでは、かなりの数の化粧品原料が個人でも直接購入できるのだ。これはそれまで知らなかった。日本だとこれはほぼ不可能だ。規制が多く、専門者向けの原料は一般消費者にはまず手が届かない。少なくとも僕の知る限り、この分野に限らず日本では専門的な品を個人で調達するハードルが非常に高い印象がある。

逆に言えば、この国には環境が揃っている。原料が手に入る。情報もある。やろうと思えば、え… もしかして…やれる!?

これが始まりであった。ある意味地獄の始まりでもあった。この先に待ち構える苦難も知らずに、急に闘志だけが燃えたぎった。

自分の理想の商品を、絶対に作りたい。むしろ今まで気に入っていたあの商品を超えるものを。

今まですごい数の商品を試しただけに、理想とする着地点は明確に見えていた。理想の質感、理想の仕上がり感。言葉にするのは難しいけど、手が覚えている。何十本もの商品をテストしてきた指先が、「これだ」という感覚を確実に知っていた。

相当な数のテストを行なってきた副産物として、好きな質感を生み出す原料の名前にも、ある程度めどがついていた。

すぐに原料を調達した。

そして、第二の地獄が始まった。

こんな楽しい地獄は初めてだったが…決して楽ではなかった。


Leave-In Treatment Mist No.115 & No.215

…こうして生まれたのが、Leave-In Treatment Mist No.115。

僕が毎日のサロンワークで、全てのお客様に使うために作った、リーブイントリートメントミスト。市販品への絶望から始まった、美容師の自作プロジェクトの最初の一本。

この先の話——配合の試行錯誤、テストの日々、そしてNo.115とNo.215が生まれるまで——は、次の記事で書こうと思う。

→ 続きの記事:自分で自分が嫌になる… 化粧品原料の些細な違い

美容師が自分の”道具”を自分で作る。それは一見、大げさに聞こえるかもしれない。

でも、毎日手に取るものだからこそ、誰かの都合で突然変わってほしくない。自分の感覚を100%信じて、自分の手で形にしたい。

それは、少なくとも自分にとってはとても自然な流れだった。


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