← 前回の記事:S-7 Development Notes #3|同じ「泡」なのに、こんなに違うのか
泡は、すこしづつ思い通りになり始めていた。
前回書いたとおり、界面活性剤ごとの泡を手で覚えて、組み合わせを設計する。とゆう考え方を手に入れてからは、試作のたびに手応えが増えていった。相変わらず泡立ち成分A(前回の記事で「もうこれだけでいいんじゃないか」と惚れ込んだ、あの成分だ)が本命で、これを軸に組み立てれば間違いない。そう信じて、泡・滑り・粘度を少しづつ詰めていた。
実際、洗っている最中の感触は、もうかなり良いところまで来ていた。泡立ち、泡の質、流したときのスッキリ感。「お、いいじゃん」と思える試作が、ちらほら出始めていた。
でも、乾かすと「普通」になる…
問題は、そのあとだった。
シャンプーを流して、タオルドライして、ドライヤーで乾かす。美容師なので、この一連の流れは体に染み付いている。そして乾かし終わった髪に指を通した瞬間、毎回同じことを思った。
……普通だな、と。
洗っている間はあんなに良いのに、乾かすと、どこにでもある仕上がりになる。悪くはない。でも、「これだ」でもない。せっかく自分で作っているのに、仕上がりが市販品と区別つかないなら、意味がないじゃないか。。。
課題が、変わった瞬間だった。泡はもう、設計できる。次の相手は「洗い上がり」だ。
洗浄成分をいじっても、そこには届かなかった
最初は、界面活性剤の組み合わせでなんとかしようとした。比率を変え、種類を入れ替え、泡のキャラクターを変えてみる。
でも、何度やっても、乾かした後の質感はほとんど変わらなかった。洗っている最中の感触は変わるのに、ドライ後は変わらない。
本を読み直しても、答えは見つからない。例の英語の本だ。読むほどに疑問が増えるのは、あの頃から何も変わっていなかった。笑
つまり、洗う工程と、乾かした後の質感は、別の場所で決まっている。たぶん。じゃあ…どこだ???
そこで思い出した、あの”保留”
ここで、ふと思い出したものがある。
Sodium Lactate。この日記の第2回で書いた、あの成分だ。「優秀な保湿剤だけど、すすぎで流れるからシャンプーに入れてもそこまで意味はない」と本に書かれていて、「じゃあ、書くなよ!!!」と1人で本にツッコミを入れつつ、わからないから保留、とメモだけして、でも何故かやたらと気になって買ってあった成分。
理由は、無い。笑(と、当時の僕は書いた)
でも、このとき頭の中で、何かが繋がった。本が「意味がない」と言っていたのは、「流れてしまうから残らない」とゆう理屈だ。じゃあ、僕がいま不満を持っているのはどこだ? 乾かした後だ。
理屈は合っていないかもしれない。でも、試すだけならタダじゃないか。いや、原料代はかかってるけど。笑
試しに、入れてみた
半信半疑だった。なにせ本には「意味がない」と書いてあるのだ。
それでも配合に加えて、いつも通り作って、いつも通り洗った。洗っている最中は、正直そこまで大きな違いを感じない。やっぱりそうか、と思いながら、流して、乾かした。
初めて「これだ」と思えた瞬間
乾かし終わって、髪に指を通した瞬間。
……え?
さらっさら、なのだ。
指がするする通る。あの「普通だな」が、無い。ずっと埋まらなかった洗い上がりの不満が、初めて前進した。何度も髪を触って確かめた。間違いない。今までの試作と、明らかに違う。
開発を始めてから、初めて「これだ」と思えた瞬間だった。
膝から崩れ落ちるような派手な感動ではなくて、静かに、でも確実に、手が「見つけた」と言っていた。
科学が説明できなかった、現場の勘
冷静になって考えると、変な話だ。
本には「流れるから意味がない」と書いてあった。理屈としては正しいのだと思う。僕なんかより遥かに化学を知っている人が書いた本だ。
でも、僕の手は、はっきり違いを感じていた。
数値やスペック表には出てこない。理屈の上では「意味がない」。それでも、毎日人の髪を洗って、切って、乾かしてきた手は、その差を一発で拾った。そして思い返せば、最初にこの成分を「なぜか買った」のも、同じ手の感覚だったのかもしれない。いや、それは嘘だ。触ってもいないんだから。これはもう、直感 としか言いようがない。まぐれだ。
理由は無い、と当時の僕は書いた。でも結果、素晴らしい成分と出会う事になった。
科学を軽んじたいわけじゃない。基礎の理屈がなければ、そもそも処方なんて組めない。ただ、教科書と現場の間には、数値にならない隙間があって、そこを埋められるのは、現場で手を動かしてきた人間なのではないでしょうか。
毎日サロンで髪に触っているとゆう、ただそれだけのこと。それが、開発において一番の武器になるなんて、始める前は想像もしていなかった。
「これだ」の、すぐあとに
あの”保留”は、いまも S-7 の処方の中にいる。発売に向けて調整中の処方にも、もちろん入っている。
ようやく軸が見えた。泡は成分A、洗い上がりはこの発見。この二本柱で詰めていけば、ゴールは近い——このときの僕は、本気でそう思っていた。
…で、ここまで読んでくれた方は覚えているかもしれない。その本命だった成分Aが、このあと思わぬ形で姿を消すことになる。
それはまた、別の回で。
🇬🇧 English version → https://masashitt.com/2026/06/10/the-sodium-lactate-moment/
🧴 S-7 is currently in final development. Join the launch list here →
https://haircaffelab.com/products/s-7-daily-shampoo
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