← 前回の記事:S-7 Development Notes #4|科学が説明できなかった、現場の勘
前回の話には、続きがある。泡の軸と、洗い上がりの軸。ふたつの柱が見えて、処方は「実験」から「形」になり始めていた。
そして2025年の7月末。僕は初めて、1000gのバッチを作った。
200gのビーカーが、1000gになった。数字にすれば、ただそれだけのことだ。でも、僕の中では大きな線をひとつ越えた感覚があった。200gは「実験」の量だ。自分の髪で試して、ダメなら流して終わり。でも1000gは、サロンのシャンプー台に置く量だ。つまりこのバージョンから、S-7は僕ひとりの髪ではなく、お客さんの髪に触れるかもしれない液体になった。とゆうことだ。
下げてみて、初めてわかった
実はこのひとつ前の試作で、僕は泡のもちもち感を支えていたある成分の比率を、少し下げていた。毎日使えるデイリーに向けて、処方全体をマイルドな方向へ寄せていく過程での調整だった。
結果は、すぐに手が感じ取った。
もちもち感が、足りない。
洗えてはいる。問題は無い。でも、手が覚えているあの泡じゃない。…ここまでこの日記を読んでくれている人なら、もうお分かりだと思う。そう、また手の感覚の話だ。笑
それで1000gのバッチでは、この比率を元に戻した。ただ「戻す」とゆうのは、後退ではない。下げてみて初めて、その成分が泡の質感のどこを支えていたのかが、はっきり分かった。逆に言えば、一度下げなければ、この確信は一生手に入らなかったと思う。
「8割型これでいける」
出来上がった1000gを、サロンで使い始めた。
当時のメモが残っている。
かなりいい感じ!泡のもちもち感向上した。お客に使うのにも8割型これでいけるけど、頭汚いとかなり量必要。でも手には優しい感じする。
当時の所感メモ・抜粋
8割型。これが当時の正直なところだった。完璧じゃない。皮脂やスタイリング剤がしっかり残っている髪だと、泡がすぐ消えて、量が必要になる。マイルドに寄せた分の、わかりやすい弱点だった。
それでも、現場に立たせた。完璧になるまで研究室(とゆう名のサロンの片隅)に置いておくこともできた。でも、サロンで毎日使わないと見えないものの方が、圧倒的に多い。それに、洗っている時の感覚だけが全てではない。洗い流し、コンディショナーの乗り方、乾かしやすさ、乾いた後の感触… こうやって並べてみたら、全然8割じゃない!!!4割くらいだ!笑 でも感触的には大きく進んだ実感はあった。
手には、優しい感じがする…
そして、大きな前進がここ。強く求めていた事。
メモの最後の一文。「でも手には優しい感じする」。これは、申し訳ないけど、正直なところ、僕のためのシャンプーだから…。
美容師の手は、一日に何度もシャンプーをする。お客さんは1日1回でも、僕らは毎日、何人分も。手荒れは美容師の職業病みたいなもので、アシスタント時代に手がボロボロになって辞めていく人を、僕は何人も見てきた。
だから、毎日使っても手が悲鳴を上げない。これは僕にとって、泡のもちもち感と同じくらい…いや正直、それ以上に切実な願望だった。
考えてみればシャンプー剤にとって、美容師の手肌とお客さんの頭皮は、同じ状況にある。洗う側の手と、洗われる側の頭皮に、同じ液体が同じ時間だけ触れている。マイルドに寄せた設計の意味を、レシピのノートの上ではなくて、自分の手が先に教えてくれた。
このときの「手に優しい感じ」が、のちのちS-7の背骨になっていく。
一本で、全部やらない
じゃあ、弱点の「洗浄力の物足りなさ」はどうするのか。
当時のメモには、こう続けてあった。「これと強いのとで使い分けたら営業でもこれで良いかもしれない」。
一本で全部をやらせない。汚れがしっかりある日は、強いものを使えばいい。毎日の大半の洗髪は、マイルドなこれでいい。むしろ毎日洗うものだからこそ、強さより優しさに振る。
S-7の「7」は、週7日の7だ。この設計思想の原型は、本だけを読んでいた頃から、僕の中ではずっと固まっていた。当時はまだ、名前すら無かったけど。
テストバッチが、現場に立った
200gの実験が、1000gになって、サロンの現場に立った。
ここから先は、足したり、引いたり、また足したりの長い旅が始まる。良かれと思って入れた成分が外れていったり、一度消えたものが戻ってきたり。次回は、その「試して、使わないと決めた成分たち」の話を書こうと思います。
入れる判断より、入れない判断の方が、たぶん難しい。何でもかんでもてんこ盛りな昨今の化粧品業界に、僕はシンプルさと優しさで、真っ向からぶつかる覚悟でいた。
🇬🇧 English version → https://masashitt.com/2026/08/10/the-first-1000g-batch-en/
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