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髪を通して世界探索をする、とある美容師の研究日誌 — Field Notes from a Hairdresser's Lab

FILED BY MASASHITT

現役美容師・29年目。サンフランシスコを拠点にヘアサイエンスとエフィラージュカットを探求しながらHair Caffe Labを運営。「科学と非科学、ハイクラスとストリート」—その交差点に挑み美容に留まらない知見と私見をマイペースに綴ります。/29-year hairdresser based in San Francisco. Exploring hair science and the Effilage technique while developing Hair Caffe Lab. Navigating the intersection of science and intuition, high-end and street — writing it all down at my own pace. About this lab →

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自分で自分が嫌になる… 化粧品原料の些細な違い

2026-04-17 By masashitt Filed Under: LAB NOTES


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前回の記事で、自分のプロダクトを作るに至った「絶望」の話を書いた。

今日は、そこから先。115.215というプロダクトが形になるまでの、なるべく時系列の記録を残していこうと思う。

コンセプトは、調達前から見えていた

実を言うと、製品のコンセプトだけは、原料を調達するよりもかなり前からハッキリしていた。

妥協したくなかった点を改めて書き出してみると、こんな感じになる。

  • 基材となる成分に、水を少しも含まないこと
  • アルガンオイルのベネフィットがちゃんと感じられること
  • なるべくシンプルな処方にすること
  • とにかく重くないこと
  • 塗布後、毛と毛の1本1本がサラサラと、しっかり独立した状態を保つこと
  • 油のツヤではなく、傷んでない子供の髪のようなツヤが出ること
  • 静電気を防止すること

この中から、今日はまず【基材となる成分に水を少しも含まないこと】にまつわる話を書こうと思う。なぜそこまでこだわったのか。そして、その原料選びで、まさかの遠回りをしたという話。

なぜ「水なし」にそこまでこだわったのか

この商品は、あくまで 高温スタイリングのための商品 として効果の高いものに仕上げたかった。

理由はシンプルで、僕をはじめ、うちのサロンのスタイリストの9割がドライカット技法を使うからだ。施術中にドライヤーでのブロードライや、高温のヘアアイロンを当てる場面がとても多い。

その際、髪に水分が残りすぎていると、ヘアアイロンの熱で水蒸気が発生する。この水蒸気が厄介で、タンパク質が熱変性を起こし、髪の質感が目に見えて落ちる。

サロンワークで、すでに乾いた髪にいきなりブローやアイロンを入れる場面は日常的にある。そこで髪を守って、質感と操作性を上げるために、こういったトリートメント商品はもう欠かせない存在になっている。そして水蒸気の発生を阻止するために、基材に水を使わない というのは、僕の中ではもう絶対条件だった。

基材はすでに決まっていた(はずだった)

では水の代わりに何を使うか。

これもすでに決まっていた。ファンデーションなどの化粧品原料としても広く使われている、安全性が非常に高いオイル。水よりさらさらと広がる、表面張力の低い液体だ。

…原料の具体的な名前は、ここでは伏せさせてください。処方のコアに近い部分なので、あしからず。

この原料は、日本にいた頃にすでに触ったことがあって、感覚としては知っていた。だから同じルートで日本から少量を調達して、手荷物としてアメリカに持ち込んだ。これで試作のスタートが切れる。

そして同時に、アメリカで同じINCI名の原料を現地のサプライヤーにも発注した。すぐに届いた。

同じ名前、同じ規格。話はここで終わるはずだった。

めまい、という表現がいちばん近い

届いた原料を使ってみて、一瞬、めまいがした。

「ち…ちがうぞ…!!!???」

INCI名は間違いなく同じ。日本でも普通に流通している化粧品原料だ。でも、仕上がりが違うのだ。僕のこの手が、違いを感じてしまう。

どう違うのか。説明が難しいのだけど、言葉にするとこういうことだ。

基材というのは、本来それ単体では「何のベネフィットも残さない」のが理想 なのかもしれない。でも、日本で触ったことのある同じ原料は、乾いた後の髪に 過剰すぎない、適度な潤い が、ほんのり残る感覚があった。

一方、アメリカで調達した方は——そして、その後に試した他の数社のものもほとんど同じだったのだけど——乾いた後には、水と一緒にどこかへ飛んでしまったかのように、何もなかったかのような仕上がり になるのだ。

…参った。

いや、これは非常に嫌な予感がした。

想定外の遠回り

そこから、少量ずつ同じ原料を別の数社から仕入れて、全部テストするという作業が始まった。

予定では、この基材選びのフェーズは、ほんの一瞬で終わるはずだったのに。

時間もかかった。お金もかかった。一本一本、手触りと仕上がりをチェックして、記録をつけて、また次を発注する。地味で、終わりの見えない作業。正直、途中で「最初に日本から持ち込んだ分だけでいいじゃないか」という弱気が何度か顔を出した。

でも、アメリカで作って売ると決めた以上、アメリカで継続的に調達できるサプライチェーンを作らないと意味がない。ここで妥協したら、プロダクトのアイデンティティが崩れる。

そう言い聞かせながら、テストを続けた。

そして、出会えた

結果、数社試した末に、ようやく「これだ」と思える基材と出会うことができた。

正直、ほっとした。本当にほっとした。

でも同時に、ちょっと背筋が寒くもなった。

100%同じ名前の原料でも、扱う会社によって中身は微妙に違う。

原料のグレード、精製度、含まれる微量成分のプロファイル、ロットごとの揺らぎ。化粧品原料のカタログの脚注に、小さく書かれているような話。

でも、自分の手で、INCI名が同じでも仕上がりが違う と感じ取ってしまったとき、その事実の重さが一気に変わった。

自分で、自分の首を絞めている

正直に言うと、普通の人にはまず分からないレベルの違いだと思う。

だけど、幸か不幸か、僕は長年、髪の毛を触り過ぎてしまった。毎日毎日、何人ものお客様の髪に触れて、乾かして、アイロンを入れて、仕上げてきた。その積み重ねのせいで、わずかな仕上がりの違いを、もう感じずにはいられない手になってしまっている。

自分で自分の首を絞めている。

正にこの事、なのではないでしょうか。

ただの基材選びひとつでも、こんなエピソードがあったわけです。ひとつの原料で、こんなに頭を抱えるとは、作り始める前は想像していなかった。

そして、ここからようやく、働いてほしい成分 をこの基材に添加してゆく作業に入れるようになる。

次は、アルガンオイルとの付き合い方で、もう一度頭を抱えることになる話を書こうと思う。


※ この記事は「Leave-In Treatment Mist No.115」開発秘話シリーズの第2回です。前回の記事:絶望が転換点だった——美容師が自分のヘアプロダクトを作った理由



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Filed Under: LAB NOTES

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