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髪を通して世界探索をする、とある美容師の研究日誌 — Field Notes from a Hairdresser's Lab

FILED BY MASASHITT

現役美容師・29年目。サンフランシスコを拠点にヘアサイエンスとエフィラージュカットを探求しながらHair Caffe Labを運営。「科学と非科学、ハイクラスとストリート」—その交差点に挑み美容に留まらない知見と私見をマイペースに綴ります。/29-year hairdresser based in San Francisco. Exploring hair science and the Effilage technique while developing Hair Caffe Lab. Navigating the intersection of science and intuition, high-end and street — writing it all down at my own pace. About this lab →

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LAB NOTES #3|0.01%の世界 アルガンオイルとの戦い

2026-04-22 By masashitt カテゴリLAB NOTES

🌐 【言語切替 / Language】
🇯🇵 日本語版 / 🇬🇧 Read in English


初めてアルガンオイル100%を、本気で髪に塗ってみた時のことを、今でも覚えている。

正直に言おう。…爆笑した。

「これが、あの?… 冗談でしょ!?」と。

ベタつき、重さ、何とも言えない野暮ったさ。美容師として、何十種類ものヘアオイルを触ってきた自分の感覚が、「これは使い物にならないな」と即答した瞬間だった。肌には良かったんだけどね。

前作と、今回のバトル相手

前回の記事では、予想もしていなかった「基材で既に悩まされた話」を書いた。基材メーカーがようやく決まり、「さあ、ここから本番だ」と意気込んで始めたのが、No.115/No.215の主要成分である アルガンオイルとの戦い だった。

僕の印象だと、アルガンオイル配合のヘアケア製品が美容師業界に大量に出始めたのは、そんなに遠い昔ではない。せいぜいここ10年くらいだろうか。でも今では、アルガンオイルを前面に出していない商品でも、成分表示を見ると使用されている商品がかなり多いことに気づく。特にプロフェッショナル向け商品では、それが顕著だ。

一応、うんちく

アルガンオイルの、ヘアケア文脈でのベネフィットは、大きく3つに集約される。

  • ビタミンEとポリフェノールが豊富 — 毛髪表面の酸化を抑え、ツヤを守る
  • オレイン酸とリノール酸のバランスが良い — 毛髪内部まで馴染みやすく、しなやかさを与える
  • 分子量が比較的軽い — 重くなりすぎず、髪と親和する

…と、うんちくは書いてみた。

でも正直、僕にとってそんな話は、どうでもよかった。

本当の魅力は、感覚の側にある

僕が本当に惚れ込んだのは、実際に髪に【適した濃度で】塗った時の「変化」の方だ。

これは言葉にしづらい。完全に視覚と感覚の話。

どうにか言葉にするなら、品のあるツヤと、しっとりだけど重くない、今までにない滑らかさ 、とでも言っておこうか。…うん、全然表現できていない気がする。笑

とにかく素晴らしい。大好きだ。

濃度は、魔法である

ただ、繰り返すけど、100%のアルガンオイルは、そのままでは髪には使い物にならない。

ヘアケア商品を作っていて、本当に大変であり、同時に最高に面白いのは、ここなんですよね。

✨ 濃度… それは、まるで魔法である。

濃度調整が全て。濃度調整を制するものは、全てを制する。

…と、色々と格言を作りたい気持ちにさせられる。笑

それほどに、原料は濃度次第で化ける。ある細い、本当に細い、ほんの一点にのみ、正気を失うほどの感動スポットが存在するのだ。これは大袈裟じゃないのです!!!

一般の方にわかりやすく言うなら、全量のたった0.01%の濃度の違いで、僕たちプロの美容師は、明らかに結果の差を感じ取ることができる。

2年の記録

ここを探すのに、2年近くかかった。

さらにこれを難しくさせたのは、テストの段階では大量生産ができないこと。

No.115/No.215のようなリーブイントリートメントミストで言えば、僕がテスト用に一度に作っていた量は、せいぜい50g。その中で0.01%を調整するとなると、キッチンスケールなんて論外。研究用の精密電子天秤(0.001g単位)を導入することになった。

…で、あの夜のことを、今でも覚えている。

もう数えるのをやめたけど、多分80回目くらいのテストバッチだったと思う。サロン業務を終えて夜の10時過ぎ、妻の髪に試す。毎回この瞬間が、期待と絶望が入れ替わる時間だった。

その夜、梳かし始めた瞬間に、手が止まった。

…あ、きた。と、わかった。

「正気を失うほどの感動スポット」とは、文字通りのことだった。

とはいえ、その後もさらに1年、「もっと上があるはずだ」と微調整を重ね続けた。

結局、「ある程度」納得のいく濃度ゾーンに辿り着くまで1年。そこから、他の成分との混合テスト。本当に仕上げるまでに、もう1年。

大手メーカー vs. 開発者=テスター一致

この2年で、気づいたことがある。

通常、大手メーカーの商品開発では、開発者とテスト者は別々の人間だ。一見、当然の役割分担に見える。

でも、0.01%の世界に入ると、どうしても「理解できる者」と「理解できない者」が出てくる。そして両者間のディスカッションは、相手の感覚を尊重しにくい領域にすぐ入り込んでしまうことは、安易に想像できる。

逆に言えば、僕のように小さい開発環境で、開発者とテスターが同一人物である状況は、「自分の指先の感覚」だけを最終審判にできる。

とことん納得いくまで追い込めるし、商品リリース後でさえ、現場で使いながら微調整を重ね続けられる。…これは、消費者にとっても、スモールビジネスを支持するという観点で、とても大きなメリットなのではないでしょうか。

結び

この0.01%の狂気に、どこまで付き合えるか。

大手が決してやらない… いや、おそらく構造的にやれない領域で、自分の手と感覚だけを頼りに、何十、何百バッチと試し続ける。その先にしか辿り着けない、細い細い一点がある。

それこそが、大量生産品の「良品」と、一人の美容師が自分の目と手で仕上げた Artifact との、本当の違いなのではないでしょうか。

余談:商品名のNo.115の由来は、テストで感動の濃度に辿り着いた時のバージョン番号なのです。


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