← 前回の記事:S-7 Development Notes #2|本を読む程に、疑問が増え続けた開発初期
泡なんて、どれも同じだと思っていた。
正確に言うと、泡のことなんて、ほとんど考えていなかった。立てばいい。それくらいの認識だった。シャンプーの良し悪しは、洗い上がりとか髪のまとまりとか、そういう「結果」のところで決まるもので、泡そのものに性格があるなんて、作り始めるまで一度も疑ったことがなかった。
でも、自分の手で配合するようになって、その思い込みはあっさり崩れた。
手しかわからない、しかも美容師の手にしかわからない感覚…
前回からずっと、ひとつ課題が残っていた。泡の中の「滑り」を、もっとちゃんと追求したい。界面活性剤って、種類ごとにキャラクターが全然違うらしい、というのは何となく分かってきていた。でも、それが具体的にどう違うのかが、僕にはまだ実感として分かっていなかった。
本を読んでも、スペック表をいくら見ても、これがなかなか分からない。「滑り」とか「もちもち感」みたいなものは、数値になってくれないから。言葉にするのさえとても難しい感触だ。
だから、自分の手と髪で確かめるしかなかった。
実際にやってみて、よく分かった。ひとことで「泡」と言っても、ねっとりした泡、もちもちの泡、スッキリした泡、ベトベトする泡があって、さらにお湯で流したときの「流れ感」みたいなものまで、それぞれ違う。同じ白い泡なのに、手のなかでの居心地がまるで別物なんです。
では、どう設計すれば良いのか…?
そこで、3つの界面活性剤を、できるだけ「単独」に近い形で比べてみることにした。時間かかるなぁとげんなりしたけれど、他に方法はない。泡成分(界面活性剤)の種類を、仮にA、B、Cとしておく。
ここで大事なのが、条件をそろえること。共通の成分の量を揃えて、ある1つを共通の土台として全部に入れておく。そうしないと、何が違いを生んでいるのか、結局分からなくなってしまうから。
地味な作業だけど、ここを雑にやると、あとで全部やり直しになる。逆に言えば、ここさえ丁寧にやっておけば、出てきた違いはちゃんと信じられる。
同じ「泡」なのに、こんなに違うのか
で、実際に手のなかで泡立ててみて、本当に驚いた。
Aは、これだけでも泡の質がとても良かった。きめが細かくて、滑りもいい。正直、「もうこれだけでいいんじゃないか」と思ったくらい。流した後の髪の質感も申し分ない。ただ、細かい微調整は必要って感じだ。少なくともメイン成分にはなるだろうとゆう予感がした。
Bは、泡立ちも、泡の滑りも、ボリュームも、どれもいまいち。…ただ、洗い上がりに独特の「キュッ」とした感じがあって、もしかすると洗浄力そのものは強いのかもしれない、という引っかかりが残った。でも、この適度なスッキリ感なら、重過ぎる泡を、洗浄力は維持したまま軽やかに出来そうだなと思った。
Cは全部に入れていた共通の土台で、これが全体の質感を、けっこう下から支えていた。これを入れるだけで泡の質感が一気にリッチになる。
同じ「泡」という言葉で、僕はずっとひとくくりにしていた。でも、質も、滑りも、量も、こんなに違う。
泡は、作るものじゃなくて、設計するものだった
この気づきが、たぶん全部の出発点になった。
「どの泡を、どう組み合わせるか」。シャンプーづくりって、そういう設計の話なんだと、このとき初めて腑に落ちた。泡どれでも似た様なものだと思っていたけど、そうじゃない。泡は、精密に設計するものだった。
だからまず、他の成分をあれこれ足していく前に、この泡の部分を、徹底的に自分の理想に近づける。それを最初の目標にすることに決めた。香りも、仕上がりも、そのあとの話。まずは、泡。
この時は、まだAが本命だった
正直に書いておくと、このときの僕は、Aにかなり惚れ込んでいた。
泡の質も、洗い上がりの髪の質感も、本当に良かった。苦労せず良い成分に出会えて喜んでいた。これを軸に組み立てていけば、きっといいものになる——そう信じて疑っていなかった。
…まあ、このAが…あとで思わぬ形で姿を消すことになるんだけど。
それはまた、別の回で。
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